院長ブログ

海外でタクシーに乗るときは、日本とちがって十分な注意を払う必要がある。私が米国留学したときのタクシーの乗車経験を紹介しよう。ニューヨーク郊外にあるタカホという町に住居を借りた。まだ自家用車を手に入れる前だったので、やむをえずレンタカーを長期で予約した。ホワイトプレーンという町にレンタカー会社の営業所があり、車で30分くらい離れた町であった。車を借りにいく交通手段がないため、タクシーを予約しようとした。といっても日本とちがって、ニューヨーク郊外の町では流しのタクシーが全く走っていない。タカホの郊外電車の駅前にタクシー会社に直結した専用電話が何台かあったので、受話器をとってみたがどれも壊れていて繋がらない。やむを得ず自宅に戻って固定電話から電話帳にのっていたタクシー会社に電話して、近くまできてもらった。それらしいタクシーが近づいてきたが、なぜか既に別の男性も後部座席に乗っている。状況がよくわからなかったが行き先を告げると、巨漢の運転手がうなずいて後部座席にのるようにいってきた。隣の見知らぬ男と二人並んで後部座席に座ると、やがて走り出した車はなぜか明らかに別の方角に走り出した。どうなっているのだろう。やがてタクシーは、一見して危険なスラム街の地域にどんどん入り込んでいった。徐々に不安感がたかまっていったが、やがて古ぼけたアパートの前にタクシーが止まった。隣の男が降車し、運転者が買い物袋をもって一緒にアパートのなかにはいっていった。まだ何が起こっているのか事情がよく呑みこめないでいると、やがて巨漢のタクシードライバーが戻ってきて、一言も発せずに車をスタートさせた。やがてやっと見覚えのある風景が見えてきて、目的のレンタカーの営業所に到着した。あとで現地の方に事情を伝えると、それは乗り合いタクシーね、といわれた。いっぺんに何人か客を乗り合いさせて運行していたらしい。もちろん日本ではあり得ない話である。また生活必需品である車をもてない米国人は、日常の買い物でさえもタクシーを利用しないと距離がありすぎて無理なため、タクシーで日常の買い物に出かけることが多いことがわかってきた。さてタクシードライバーにいわれた料金をはらって下車すると、運転手が降りてきて私にむかって「帰り道がわかるか?」と聞いてきた。よくわからないと伝えると、手近にあった広告の紙の裏に詳細な地図をかきはじめた。信号の位置や、方角などを一通り記入して私に渡してくれた。急に無愛想なタクシードライバーの顔が、妙に親しげにみえてきたのは気のせいであろうか。人は見かけによらない、とつくづく感じさせられた経験である。



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