院長ブログ

 帯状疱疹後の神経痛は時に難治性となり、ペインクリニック外来でもよく遭遇する疾患である。もともと幼小児期に罹患した水疱瘡のウイルスが神経節のなかに免疫系から逃れて潜伏してしまい、数十年後に細胞性免疫が低下したときに一気に末梢神経を介して皮膚に水疱を形成する。帯状疱疹の年間発生率は約1%であり、宮崎県でおこなわれた疫学調査から近年その患者数は増加傾向にあるといわれている。日本人の数人に1人は一生のうちに一回以上は帯状疱疹を発症するといわれており、決して希な疾患ではない。
 国内では最近Shozu Herpes Zoster Studyとよばれる香川県の小豆島でおこなわれた大規模前向き疫学研究が報告され、帯状疱疹の予防として水痘ワクチンの細胞性免疫を介したワクチンの有効性の理論的背景が明らかになった。また米国の大規模研究結果では水痘ワクチンにより帯状疱疹の発症率や帯状庖疹後の神経痛への移行などが概ね半減することが明らかになっている。今年3月に国内の水痘ワクチンの臨床適応に帯状疱疹の予防が正式に認められた。当院でも帯状疱疹の予防ワクチンの接種を予約制にて接種しています。
 もう数十年前になるが、劇症型の帯状疱疹後神経痛の高齢の女性が入院してきたことがある。発症後から約1ヶ月にわたりほぼ無治療の状態であったため、入院後すぐに持続硬膜外ブロックをおこない、罹患部の皮膚が完全に無痛が得られたにもかかわらず驚いたことに神経痛の症状が全く変わらなかった症例を経験した。痛みの刺激が長期間続いたために中枢神経系の可塑的な炎症性変化が生じて難治性疼痛が完成してしまった症例である。痛みが一旦完成してしまうと現代の医療でも治療は困難である。やはり早期診断、早期治療が重要であり、一刻も早く治療を開始することがなによりも大切である。
 以下に、私が以前に中日新聞の紙上診察室に書いた帯状疱疹後神経痛の記事を掲載する。随分古い記事だが基本的な対応は今もかわっていない。また小豆島でおこなわれた論文の一部を参考のために掲載する。水痘ワクチンの帯状庖疹後神経痛の予防効果に言及している。



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