院長ブログ

痛みと血圧には関連があるだろうか。痛みがつよいと、自律神経を介して血圧が上昇してしまう。ではもともと高血圧がある患者は、痛みに敏感だろうか?実は高血圧の患者は、痛みに鈍感なことが従来の研究で明らかになっている。この理由は人類の歴史とも深い関係がある。
血圧上昇に関連するレニンアンジオテンシン系は、脳内麻薬のオピオイド系を介して痛みを緩和するといわれている(図参照)。高血圧になると疼痛閾値が1~2割程度上昇し、逆に高血圧が治癒すると疼痛閾値はもとに戻ることが知られている。古来ヒトが生存競争を生き残るために、闘争を維持する自律神経(交感神経系)と闘争に伴った痛みを緩和する脳内麻薬のオピオイド系が密接にリンクした種族が生存競争には優位であったと考えられる。このため交感神経系を代表するレニンアンジオテンシン系が機能亢進している種族が、人類の長い歴史のなかで生き残ってきた可能性がある。しかし現代のような種族間の闘争が激減した世界では、高血圧を引き起こす遺伝子系は種保存にとってはむしろ悪影響をおよぼすようになってしまった。
 1992年イギリスの自然科学雑誌のNatureに、身体能力の優れた登山家や運動選手などのアスリートは、闘争に関連したレニン系の亢進している遺伝子多型のグループに属していることが多いことがわかり話題になった。また私が名古屋大学在籍時におこなっていた難治性の痛み患者の遺伝子解析では、レニン系の亢進している遺伝子多型患者が多いことを報告してきた(国際疼痛学会)。このように、痛みと高血圧関連遺伝子にはいくつかの接点があり、学問上興味深いテーマとなっている。



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