オーベン
日常診療では、専門技術と医学知識の両者を日々絶えず向上させていく必要がある。技術は書物をみて会得する部分もあるが、特に神経ブロックに関しては先輩医師から実地で引き継いで学んでいく部分も多い。私が卒業して母校の大学の麻酔科医局に入局した頃は現在のような整った研修制度がない代わりに、先輩医師から手取り足取りして教わった部分も多い。当時はまだドイツ語がかなり使われており、先輩医師のことをオーベンと呼んでいた。ドイツ語で「上」のこを意味している。どんなオーベンに出会うかでその医師の一生が決まるとまでいわれていた。私がいわゆるオーベンと出会ったのは卒後2年目に市内のS病院に初めて赴任したときである。H先生と呼ばせてもらうが、専門的な技術の素晴らしさはもちろんだが、温厚な人柄で手術室のチームのまとめ役としても大活躍していた。朝私が医局でのんびりコーヒーを飲んでいる間に、昨日の手術患者をさっと回診してきており、患者を把握する技術はまさに超一流であった。H先生には私が大学に戻ってからも公私にわたって大変お世話になった。残念ながらご病気で一線を退かれたが、私自身H先生の境地には未だ達していない。きっと天国で「まだまだ」といわれているような気がする。