院長ブログ

痛みと血圧には関連があるだろうか。痛みがつよいと、自律神経を介して血圧が上昇してしまう。ではもともと高血圧がある患者は、痛みに敏感だろうか?実は高血圧の患者は、痛みに鈍感なことが従来の研究で明らかになっている。この理由は人類の歴史とも深い関係がある。
血圧上昇に関連するレニンアンジオテンシン系は、脳内麻薬のオピオイド系を介して痛みを緩和するといわれている(図参照)。高血圧になると疼痛閾値が1~2割程度上昇し、逆に高血圧が治癒すると疼痛閾値はもとに戻ることが知られている。古来ヒトが生存競争を生き残るために、闘争を維持する自律神経(交感神経系)と闘争に伴った痛みを緩和する脳内麻薬のオピオイド系が密接にリンクした種族が生存競争には優位であったと考えられる。このため交感神経系を代表するレニンアンジオテンシン系が機能亢進している種族が、人類の長い歴史のなかで生き残ってきた可能性がある。しかし現代のような種族間の闘争が激減した世界では、高血圧を引き起こす遺伝子系は種保存にとってはむしろ悪影響をおよぼすようになってしまった。
 1992年イギリスの自然科学雑誌のNatureに、身体能力の優れた登山家や運動選手などのアスリートは、闘争に関連したレニン系の亢進している遺伝子多型のグループに属していることが多いことがわかり話題になった。また私が名古屋大学在籍時におこなっていた難治性の痛み患者の遺伝子解析では、レニン系の亢進している遺伝子多型患者が多いことを報告してきた(国際疼痛学会)。このように、痛みと高血圧関連遺伝子にはいくつかの接点があり、学問上興味深いテーマとなっている。



海外でタクシーに乗るときは、日本とちがって十分な注意を払う必要がある。私が米国留学したときのタクシーの乗車経験を紹介しよう。ニューヨーク郊外にあるタカホという町に住居を借りた。まだ自家用車を手に入れる前だったので、やむをえずレンタカーを長期で予約した。ホワイトプレーンという町にレンタカー会社の営業所があり、車で30分くらい離れた町であった。車を借りにいく交通手段がないため、タクシーを予約しようとした。といっても日本とちがって、ニューヨーク郊外の町では流しのタクシーが全く走っていない。タカホの郊外電車の駅前にタクシー会社に直結した専用電話が何台かあったので、受話器をとってみたがどれも壊れていて繋がらない。やむを得ず自宅に戻って固定電話から電話帳にのっていたタクシー会社に電話して、近くまできてもらった。それらしいタクシーが近づいてきたが、なぜか既に別の男性も後部座席に乗っている。状況がよくわからなかったが行き先を告げると、巨漢の運転手がうなずいて後部座席にのるようにいってきた。隣の見知らぬ男と二人並んで後部座席に座ると、やがて走り出した車はなぜか明らかに別の方角に走り出した。どうなっているのだろう。やがてタクシーは、一見して危険なスラム街の地域にどんどん入り込んでいった。徐々に不安感がたかまっていったが、やがて古ぼけたアパートの前にタクシーが止まった。隣の男が降車し、運転者が買い物袋をもって一緒にアパートのなかにはいっていった。まだ何が起こっているのか事情がよく呑みこめないでいると、やがて巨漢のタクシードライバーが戻ってきて、一言も発せずに車をスタートさせた。やがてやっと見覚えのある風景が見えてきて、目的のレンタカーの営業所に到着した。あとで現地の方に事情を伝えると、それは乗り合いタクシーね、といわれた。いっぺんに何人か客を乗り合いさせて運行していたらしい。もちろん日本ではあり得ない話である。また生活必需品である車をもてない米国人は、日常の買い物でさえもタクシーを利用しないと距離がありすぎて無理なため、タクシーで日常の買い物に出かけることが多いことがわかってきた。さてタクシードライバーにいわれた料金をはらって下車すると、運転手が降りてきて私にむかって「帰り道がわかるか?」と聞いてきた。よくわからないと伝えると、手近にあった広告の紙の裏に詳細な地図をかきはじめた。信号の位置や、方角などを一通り記入して私に渡してくれた。急に無愛想なタクシードライバーの顔が、妙に親しげにみえてきたのは気のせいであろうか。人は見かけによらない、とつくづく感じさせられた経験である。



シャドーボックスをご存じでしょうか。当クリニックにも受付正面の壁やトイレ内に飾られております。もともとシャドーボックスとは17世紀のヨーロッパで流行した切り抜いた絵柄を幾重にも塗り重ねるデコパージュの技法の1つです。 気にいったプリント絵柄を選び、同じ絵柄を複数枚何層にも切り重ねることによって立体感を持たせ、奥行きを演出した作品を作り出すホビーです。5~10枚の同じ絵柄のプリント(紙)を遠近を考えながら切り抜き立体的に貼り重ね深さのある額に入れて飾ります。絵柄はオランダの画家、アントンピックの作品を使用することが多いです。当院のトイレに掛けられているボックスには、右下にアントンピックの名前がはいっています。いずれも私の家内が作成しております。受診された時に、ご覧になってください。



 帯状疱疹後の神経痛は時に難治性となり、ペインクリニック外来でもよく遭遇する疾患である。もともと幼小児期に罹患した水疱瘡のウイルスが神経節のなかに免疫系から逃れて潜伏してしまい、数十年後に細胞性免疫が低下したときに一気に末梢神経を介して皮膚に水疱を形成する。帯状疱疹の年間発生率は約1%であり、宮崎県でおこなわれた疫学調査から近年その患者数は増加傾向にあるといわれている。日本人の数人に1人は一生のうちに一回以上は帯状疱疹を発症するといわれており、決して希な疾患ではない。
 国内では最近Shozu Herpes Zoster Studyとよばれる香川県の小豆島でおこなわれた大規模前向き疫学研究が報告され、帯状疱疹の予防として水痘ワクチンの細胞性免疫を介したワクチンの有効性の理論的背景が明らかになった。また米国の大規模研究結果では水痘ワクチンにより帯状疱疹の発症率や帯状庖疹後の神経痛への移行などが概ね半減することが明らかになっている。今年3月に国内の水痘ワクチンの臨床適応に帯状疱疹の予防が正式に認められた。当院でも帯状疱疹の予防ワクチンの接種を予約制にて接種しています。
 もう数十年前になるが、劇症型の帯状疱疹後神経痛の高齢の女性が入院してきたことがある。発症後から約1ヶ月にわたりほぼ無治療の状態であったため、入院後すぐに持続硬膜外ブロックをおこない、罹患部の皮膚が完全に無痛が得られたにもかかわらず驚いたことに神経痛の症状が全く変わらなかった症例を経験した。痛みの刺激が長期間続いたために中枢神経系の可塑的な炎症性変化が生じて難治性疼痛が完成してしまった症例である。痛みが一旦完成してしまうと現代の医療でも治療は困難である。やはり早期診断、早期治療が重要であり、一刻も早く治療を開始することがなによりも大切である。
 以下に、私が以前に中日新聞の紙上診察室に書いた帯状疱疹後神経痛の記事を掲載する。随分古い記事だが基本的な対応は今もかわっていない。また小豆島でおこなわれた論文の一部を参考のために掲載する。水痘ワクチンの帯状庖疹後神経痛の予防効果に言及している。



医学の話題ではありませんが、映画の話をしましょう。今から約30年前、私が単身米国留学に向かう飛行機のなかで、Witnessという映画が上映されました。そもそもWitnessという英単語の意味もわかりませんでしたが、自分の英語の理解力を確認するために映画を見始めました。Witnessは日本語で証人や目撃者という意味があり、たとえば診療行為の承諾書にある証人欄には英語表記でWitnessと書かれており、医学でも大事な英単語の一つですが、当時は題名の意味もわかりませんでした。映画の冒頭で白いベールをかぶった質素な服装の女性や黒装束の男性が現れますが、この集団が何を意味するのかも皆目見当がつきませんでした。ペンシルベニア駅の構内のトイレで、少年が殺人事件を目撃(つまりこの少年が表題のWitnessでした)することから物語が始まります。若き日のハリソンフォードがジョンブックという刑事役で主演しており、恋愛あり、アクションあり、の映画でしたが、映画ででてくるドイツ語を話す集団が何者なのかまったく理解できませんでした。映画が終了すると一斉に機内で拍手がおこり、隣の米国人の婦人が私に、恋愛ありアクションありの素晴らしい映画だと話しかけてきました。私自身は映画の背景も十分に理解できず、留学途中にもかかわらず己の英語能力の未熟さにがっかりしました。その後米国在住の同僚から、ドイツから米国に移民した宗教に基づいた特異な生活スタイルを維持しているAmishの存在を教えてもらいました。後にニューヨークから車でワシントンDCまで旅行したときに、ペンシルベニア大学の友人を訪ねる途中で、ランカスター郡でまさに映画で登場したAmishにであいました。白いベールをかぶった女性や黒装束の男性など映画でみたシーンそのものでした。彼らは車や電話などの文明の利器を一切拒否し、馬車を交通手段としていました。Amishの観光施設は皮肉にもAmish以外の米国人が経営しておりました。この映画のDVDは、アマゾンでは現在1500円くらいで手にはいります。米国の風習などに興味のあるかたは一度御覧になってください。